はじめに
今回はエンタープライズ向けCMSと、先日移行を行った microCMS + Webフレームワークとの比較を行いたいと思います。
比較概要
比較は、次の点に関して行います。
- 利用のしやすさ: 管理画面の使いやすさ、直感的な操作性、コンテンツの追加や編集の容易さ。
- カスタマイズ性: テーマやプラグインの豊富さ、カスタマイズの自由度。
- パフォーマンス: ページの読み込み速度、最適化機能。
- セキュリティ: 定期的なセキュリティ更新、脆弱性への対応力。
- SEO対策機能: 検索エンジン最適化のための機能やプラグインのサポート。
- 多言語対応: 複数言語でのコンテンツ管理と表示のサポート。
- モバイル対応: レスポンシブデザインのサポート、モバイルデバイスでの表示最適化。
- サポートとコミュニティ: 開発者やユーザーのコミュニティの活動性、公式サポートの質。
- 拡張性: サイトの成長に合わせた拡張機能の追加やスケールアップの容易さ。
- データ管理とバックアップ: コンテンツのバックアップと復元機能、データのエクスポートとインポート機能。
- APIとの統合: 外部サービスやアプリケーションとの連携機能。
- ユーザー管理と権限設定: 複数ユーザーの管理、ロールに基づくアクセス権限の設定。
これらの観点から、大まかに比較内容をまとめたものが次の表になります。
比較項目 | エンタープライズ向けCMS | microCMS + Webフレームワーク |
---|---|---|
利用のしやすさ | △ | ◎ |
カスタマイズ性(コンテンツ) | △ | ○ |
パフォーマンス | △ | ◎ |
セキュリティ | △ | ◎ |
SEO対策機能 | △ | - / △ |
多言語対応 | ◎ | △ |
モバイル対応 | △ | △ |
サポートとコミュニティ | △ | ○ |
拡張性(システム) | ◎ | △ / ○ |
データ管理とバックアップ | △ | △ |
APIとの統合 | △ | △ / ◎ |
ユーザー管理と権限設定 | ◎ | △ |
比較例:- 未対応 / △ 不十分・難しい / ○ 十分・ふつう / ◎ 充実・簡単
以降、それぞれの詳細について触れていきます。
エンタープライズ向けCMSとmicroCMSの比較
1. 利用のしやすさ
- エンタープライズ向けCMS: CMSとしてはかなり高機能であるが故に難しく、利用するにあたって学習が必要となります。非IT部門へ導入する場合には同様に教育が必要となります。管理画面は機能が豊富な分、直感的な操作性には欠け、機能をよく理解して操作する必要があります。
- microCMS: 記事の作成とユーザー管理が主な機能となるため、シンプルで覚えなければならない事柄も少なく済みます。直感的な画面で、コンテンツの追加や編集が容易であり、初心者でも使いやすいと言えます。
2. カスタマイズ性(コンテンツ)
- エンタープライズ向けCMS: 原則として、しっかりとした開発経験が必要となります。これに加え、従来のHTML/CSS、JavaScriptなどの知識が必要となります。コンテンツデータ定義自体のカスタマイズは管理画面上で行えますが、データベースの知識は必用となります。
- microCMS: コンテンツデータ定義自体のカスタマイズ=定義変更などは管理画面上で行えます。テンプレート部分のカスタマイズは従来のHTML/CSSと、Next.js・Nuxt・Astro等、フロントエンド寄りのWebフレームワークの知識があれば行えます。
3. パフォーマンス
- エンタープライズ向けCMS: パフォーマンスは運用する環境に左右されます。アプリケーションサーバー、DBサーバー共に4コア以上のCPU、32GB以上のRAMが推奨スペックとなります。
- microCMS: コンテンツをSSG(Static Site Generation)で生成して配置する場合、従来型のCMSとは比較にならない高いパフォーマンスを発揮します。アプリケーションサーバー、DBサーバーといったものは不要になり、Webサーバーさえあれば運用が可能となります。スペックも高いものは要求されません。SSR(Server Side Rendering)の場合は運用する環境に左右されます。
4. セキュリティ
- エンタープライズ向けCMS: 過去重大度の高い脆弱性が発表されているため、きちんとした対策が必要となります。また、大部分を開発者による実装によって実現していくため、実装自体に対する脆弱性検査・対策も必要となります。WAF(Web Application Firewall)の導入はほぼ必須となります。
- microCMS: SSGの場合、静的なファイルを出力して配置して公開するため、リクエストに対し動的に処理する部分がありません。この場合、脆弱性に関してはほぼ無いと言えます。DDoSへの対策程度となります。SSRの場合は動的に処理する形となり、WAFの導入等、従来型のCMS同様のセキュリティ対策が必要となります。
5. SEO対策機能
- エンタープライズ向けCMS: SEO対策機能は用意されていないため、自前で実装していく必要があります。
- microCMS: microCMS自体でのSEO対策機能はありません。Webフレームワーク側での実装を通して実現していく必要があります。
6. 多言語対応
- エンタープライズ向けCMS: 複数言語でのコンテンツ管理と表示が可能です。
- microCMS: コンテンツ内での他言語対応はありません。言語ごとにAPI(データ)を分けて用意する等の工夫で実現する事になります。
7. モバイル対応
- エンタープライズ向けCMS: モバイルデバイスに対応したテンプレート/CSS等の作成が必要となります。管理画面はモバイル対応していません。
- microCMS: モバイルデバイスに対応したテンプレート/CSS等の作成が必要となります。管理画面はモバイル対応していますが、一応レベルであり操作性はそれほど良くありません。
8. サポートとコミュニティ
- エンタープライズ向けCMS: サポートを受けるには、原則として認定試験を受けて資格を取る必要があります。資格が無い場合は、当社のような資格保有者が所属している開発ベンダーに依頼して代理で問い合わせて貰う必要があります(ただし、Headless CMSは資格不要)。問い合わせは専用サイトの掲示板で行い、概ね数日以内には回答が来ます。日本語のコミュニティは過去存在していましたが、現在は活動していません。
- microCMS: 管理画面のチャット欄により問い合わせが行えます。botによる一時切り分けが行われ、そこで解決しない場合に人の担当者が付き、チャットによるサポートが受けられます。概ね30分~2時間以内には何らかのリアクションがあります。問題解決してチャットがクローズした後、メールによるまとめも配布され、手厚い対応を受けられます。コミュニティは現在それほど活発では無いようですが、Discord内で運用されている公式コミュニティが存在しています。
9. 拡張性(システム)
- エンタープライズ向けCMS: 自前で開発が行える、もしくは当社のような開発ベンダーのパートナーがいる前提となりますが、CMS自体の高度な拡張が可能です。公開承認ワークフローのカスタマイズも行えます。
- microCMS: 公開承認ワークフローのカスタマイズ等は行えません。ただし、microCMSが担当する部分はコンテンツデータのみとなり、それ以外と別途異なるサービス等と組み合わせる場合、カスタマイズ性は他サービスにも影響を受けるものとなります。
10. データ管理とバックアップ
- エンタープライズ向けCMS: 手軽に一式バックアップできる機能はありません。データベースのバックアップ・復元機能と、ファイルのバックアップなどを組み合わせる必要があります。エクスポート・インポートについても専用のPowershell環境を使用する必要があり、ドキュメントも不十分なため、
- microCMS: APIのスキーマのエクスポート・インポートは管理画面から行えます。データのインポート・エクスポートは管理画面からは行えず、APIを呼び出す形で実装する必要があります。ドキュメントはきちんと整備されており、実装自体は容易に行えます。
11. APIとの統合
- エンタープライズ向けCMS: 統合機能は容易されておらず、外部から操作可能なAPIもありません。サイトの一部としてAPIの形で実装して公開する必要があります。
- microCMS: 統合機能は用意されていませんが、ほぼ全ての操作がAPIとして公開されています。また、コンテンツデータ以外は他サービスを呼び出す必要があるため、APIを活用したサイト構築を前提とする事になります。
12. ユーザー管理と権限設定
- エンタープライズ向けCMS: 複数ユーザーの管理が容易で、ロールに基づくアクセス権限の設定が詳細に行えます。 Microsoft Entra IDによるシングルサインオンも行えます。
- microCMS: 基本的なユーザー管理と権限設定が可能です。Teamまでのプランでは、1ロールしか作成できないため、全員が管理者権限となります。シングルサインオンが行えるのは、Enterpriseプランのみとなります。
まとめ
オールインワンかつ多機能なエンタープライズ向けCMSに対し、microCMSの方はコンテンツ管理部分に割り切っているため、シンプルで使いやすいものとなっています。
複雑なシステム拡張はmicroCMSではサポートされていませんが、microCMSがAPIベースであるがため、他のAPIベースのサービスや独自システムとの組み合わせが行え、柔軟なシステム構成が取れるようになっています。
フロントエンド部分ではモダンなWebフレームワーク等も使え、.NET + C#での開発よりも軽量に行えるようになっており、SSGを活用できればセキュリティ的にも優れたものになります。
自社Webサイトのリニューアルなどの際、エンタープライズ向けCMSでは多機能過ぎて難しい……と感じる場合は、microCMS + Webフレームワークという選択肢もご検討ください。