イーストのブログでは、これまで「外字ってなに?詳しく教えて!」をはじめ、外字の仕組みや使い方を紹介してきました。今回は、外字がなぜ生まれ、なぜ今それを減らそうとしているのかを考えます。

外字は、単に珍しい漢字や難しい漢字を意味する言葉ではありません。あるコンピューター環境が標準で扱う文字の範囲に含まれず、独自に追加された文字を指します。

手書きなら必要な形をその場で書くことができます。一方、コンピューターでは、あらかじめ用意された文字から選んで入力・表示します。この違いが、外字が必要となる出発点です。

文字集合がつくる「内」と「外」

コンピューターで扱える文字は、JISの漢字規格やUnicodeなどの「符号化文字集合」によって定められています。文字集合に収録され、共通の文字コードで表現できるものを「内の文字」と考えたとき、そこにない文字を利用者が独自に追加したものが「外の文字」、外字です。

したがって、外字かどうかは文字そのものの性質ではありません。古いJISでは外字だった文字が、Unicodeでは標準の文字として扱えることもあります。外字とは、特定の文字集合やシステムに対する相対的な概念です。

手書きの文字の多様性

現代の私たちは、文字をIMEで「打つ」ものとして捉えがちです。読みを入力し、候補から選ぶため、文字は初めから有限個の記号として存在するように見えます。


しかし、文字は長い間、人の手で書かれてきました。書き手、時代、地域、筆記具によって、点画の長さや接し方から文字の骨組みまで、さまざまな揺らぎが生じます。

こうした文字の考える際に使われる、「字種」「字体」「字形」という三つの概念があります。字種は、読みと意味を共有し、一般には互いに交換可能とみなされる字体の集合です。字体は文字の抽象的な骨組み、字形はそれが具体的に表された形です。

例えば「高(くち高)」と「髙(はしご高)は、一般には同じ字種に属する異なる字体と考えられます。一方、同じ「高」でも、フォントによって線の長さや全体のバランスが異なるのは字形の違いです。ただし、どの差を字体差、字形差とみなすかは一意に決まりません。

字体と字形の考え方や手書き文字の多様性については、文化庁の「常用漢字表の字体・字形に関する指針(国語分科会報告)」に詳しく整理されています。

時代とともに変遷する正字と異体字

同じ字種に属しながら字体が異なるものは、互いに「異体字」の関係にあります。このうち、ある時代や地域で標準とされる字体を「正字」といいます。正字以外の字体を単に「異体字」と呼ぶこともあります。異体字の基本については、過去の記事「同じ文字でも形が違う?「異体字」のお話」でも紹介しています。

ただし、どの文字を正字とするかには変遷があります。

中国では、科挙の答案など公的な用途に、規範に沿った楷書の字体が求められました。異体字が氾濫していた唐の時代には、『干禄字書』が字体を「正」「通」「俗」に分類し、用途に応じた基準を示しています。この整理は後世にも影響を与えていますが、実際に使われる字体や正俗の判断は時代とともに変化していました。

日本では、戦後、印刷字体の標準を示す当用漢字字体表が定められました。その過程で略字や俗字の一部が標準として採用され、それまで正字とされた字体は、現在では旧字体や異体字として意識されるようになりました。

このように、正字と異体字の区別は唯一の基準ではなく、時代や地域によって変化してきました。なお、異体字は字体どうしの関係を示す語であるのに対し、外字は特定の文字集合やシステム上の扱いを示す語です。両者は混同されがちですが、別の概念です。

情報交換のための文字の包摂

コンピューターで文字を交換するには、送信側と受信側が同じデータを同じ文字として解釈できなければなりません。そのため、多様な書き方を有限の文字に整理する必要があります。

字体や字形の一定の違いを、同じ符号化文字として扱うことを「包摂」といいます。またUnicodeでは、中国・日本・韓国などで使われる漢字のうち、同じ文字と判断されたものを共通の符号位置で扱う「統合」も行われています。

どの違いを残し、どの違いをまとめるかは文字集合によって異なります。細かく区別すれば表記を保存できますが、入力・検索・データ連携は複雑になります。大きくまとめれば情報交換は容易になりますが、必要な字体差を表現できないことがあります。

人名の異体字とアイデンティティ

とりわけ慎重な扱いが求められるのが人名です。一般の文章なら同じ文字として包摂できる字体差でも、人名では区別が求められる場合があります。

人名の異体字について、「明治期に戸籍を作った役人の書き間違いによって増えた」と説明されることがあります。しかし、誤記や写し間違いによる例がある一方、すべてをそれだけで説明することはできません。

すべての国民が名字を名乗ることとされた明治初期には、現在のように、公に字体を整理・標準化した文字表はまだ存在していませんでした。当時通用していた字体や、手書きでは許容されていた字形が戸籍に記載されました。それらを後世の標準字体の体系に照らして読み取ることで、当時は揺らぎの範囲だったものまで、別箇の字体として捉えられた可能性もあります。

一方、その差が現在持つ意味は、成立の経緯だけでは決まりません。書き方の揺らぎに過ぎなかったとしても、氏名として用いられ続ける中で、家族から受け継がれた表記として意味を持つことがあります。

もっとも、実務で字体の区別が求められるのは、本人が重視する表記を尊重するというアイデンティティの問題だけでなく、法令や制度に基づく公的記録との照合や本人確認などのアイデンティフィケーションの問題でもあります。

こうした事情から、文字集合では同じ文字に包摂される字体差であっても、本人の表記や公的記録上の字体を再現するために、外字が作られることがあります。

独自の外字から、標準の文字へ

採用する文字集合で表現できない字体を保持するため、各組織やシステムは外字を作ってきました。しかし、独自のコードとフォントに依存する外字は、システム間の相互運用を妨げます。同じ外字環境を持たない相手には文字化けすることがあり、データ変換や移行時にも確認作業が発生します。

解消すべきなのは、人名に必要な異体字そのものではなく、組織ごとに孤立した外字です。必要な字体を共通の文字体系に位置づけ、交換できるようにすることが求められます。

そのために整備されたのが「文字情報基盤」です(文字情報技術促進協議会)。戸籍や住民基本台帳で必要となる文字を、約6万字のMJ文字として整理しています。地方公共団体の標準準拠システムでは、これを拡張した約7万字の「行政事務標準文字」の導入も進められています(デジタル庁)。

異体字をUnicode上で表現する方法の一つが「IVS」です。基になる漢字と「異体字セレクタ」を組み合わせ、同じ文字に包摂された字形のうち、特定のものを指定します。仕組みや使用例は、過去の記事「『鬼滅の刃』の人名がパソコンで正しく出せない?表示する方法とは。」でも紹介しています。ただし、利用には対応したOS、フォント、アプリケーションが必要で、既存システムをすぐに移行できるとは限りません。

イーストでは、旧来のWindows環境でも多くの外字を扱えるよう、利用頻度の高い文字を厳選した「人名外字」シリーズを提供しています。外字環境を組織内で統一できるサーバーライセンスも用意しています。一方、UnicodeでIVSを利用できる環境向けには、文字情報基盤の約6万字から目的の文字を検索・入力できる「IVSパレットMJ」を提供しています。

製品の詳細はイーストの外字製品ページをご覧ください。

既存システムの制約から手放せない環境では、運用範囲を管理しながら外字を使い続ける。移行できるところでは、必要な字体を共通の文字体系に位置づけ、独自の外字を減らしていく。外字の行く先は一つではなく、もしばらくはこの二つの動きが並行することになるでしょう。